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メキシコ進出法務ファイルⅡ:メキシコにおける人事・労務管理上の留意点


(メキシコ進出法務ファイルでは、メキシコ進出における法的留意点をコラム形式で解説します。)

 メキシコの労働法制は,主に連邦労働法(Ley Federal del Trabajo)により規定されている。同法では,メキシコ革命の思想を受け継ぎ,労働者保護のための伝統的な法制度がいまだ多く残されている。2012年に大改正がなされ,その後も改正が重ねられており,改正の実務影響にも留意が必要である。

 日本では無期・有期双方の労働契約が認められる一方,メキシコでは無期契約が基本となる。2012年改正により,試用期間・研修期間・季節労働・時間給が認められるようになり労働関係の柔軟化が図られたものの,有期契約はなお限定された場合にしか認められていない。

 ただし,正社員の解雇が厳しく制限されている日本とは異なり,メキシコでは無期契約の労働者を解雇することも一定の補償金を支払えば可能である。もっとも,解雇に正当理由があるか否かにより,解雇補償金の支払の要否は異なっている。正当理由がないにもかかわらず解雇補償金を支払わずに解雇した場合には,係争期間中の労働者の逸失利益まで支払わなければならなくなる点で留意が必要である[1]。

 また,メキシコでは,企業は,労働者に対し,労働者利益分配金(PTU: la Participación de los Trabajadores en las Utilidades de las Empresas)として,課税所得(税引き前利益)の10%を分配する義務がある。PTUは,労働者にインセンティブを付与することなく利益のみを分配することを前提としており,また税務上損金にも計上できない点で企業からは批判が多い制度である。PTUの支払を回避するために,多くの企業において,人材派遣を行う別会社に労働者を所属させ,同会社に利益を発生させない会計処理をする実務が行われている。もっとも,2012年の労働法改正により,このような実務を制限する規制が導入されており留意が必要である。

 上述のPTUのほか,企業は,労働者に対し,クリスマスボーナス(aguinaldo)や社会保険などの負担義務があり,基本給を設定するにあたってもこれらの負担を考慮しつつ決定することが望ましい。

 労働組合に関しては,過激な外部の労働組合による干渉をあらかじめ排除するために,企業は,自社の労働者に労働組合を結成させたり,穏健な労働組合に加入するように働きかける実務が存在する[2]。労働組合が存在する場合には,企業は,労働協約や就業規則を締結する義務も負うことになる。

 労働紛争については,通常の裁判所とは異なる調停仲裁委員会(la Junta de Conciliación y Arbitraje)において審理され,当事者対等の原則が労働者に有利に修正されたり,調停が前置されたりしている。なお,メキシコ政府においては,透明性・独立性強化の観点から,労働紛争のs審理を司法裁判所に移管することも議論されている。

 以上のような労働法規制の遵守に加え,メキシコの人事労務上の課題としては,離職率が非常に高いことが挙げられる。現地労働者の会社への帰属意識をもってもらい,継続的な勤務のインセンティブを高めるためには,日本企業は,日墨間の文化的価値観の違いを理解した上でより積極的に従業員とのコミュニケーションを図ることも重要である。

参考文献:高橋=ナマドバスケス「「メキシコ進出の法務・リスクマネジメント─進出ラッシュの背景と米大統領選の影響を含めて」(ビジネス法務2017年2月号特別企画)

[1] 2012年の改正により,不当解雇の場合の違反金を12か月の労働者の逸失利益を上限とすることが明記され,企業の予測可能性が一定程度確保された。

[2] 労働法923条は,既に組合が存在し労働協約を締結している会社に対しては,他の組合が労働協約締結を目的に会社に対してスト予告を行ったとしても,正当なストとして受理されないと規定している。

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