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メキシコ進出法務ファイルⅠ:現地法人設立・運営上の留意点


(メキシコ進出法務ファイルでは、メキシコ進出における法的留意点をコラム形式で解説します。)

 メキシコの会社の設立・運営に関するルールは,商事会社一般法(Ley General de Sociedades Mercantiles)により規定される。日本企業がメキシコ現地法人を設立する場合,株主・社員となる日本の親会社の有限責任を確保するため,株式会社(S.A.: Sociedad Anónima)又は合同会社(S. de R.L.: Sociedad de Responsabilidad Limitada)が選択されるのが通常である。いずれの会社形態においても,定款を変更することなく資本金を増減できる可変資本(Capital Variable:C.V.)制度が利用されることが多い[1]。

 メキシコでは,外国投資法(Ley de Inversión Extranjera)に基づく外資参入規制は大幅に緩和されており大きな支障となることはほとんどないものの,会社設立・運営に当たって特に留意が必要なのは,以下の通り,権限委任状・公証人の重要性である。

 メキシコの株式会社の機関は,株主総会(Asamblea General de Accionistas),取締役会(Consejo de Administración)[2],監査役(Comisario)などが存在しており,一見すると日本と類似しているように思われる。しかし,日本とは異なり,取締役会設置会社において,会社を単独で代表する代表取締役の設置が会社法上当然には予定されていない。社長や執行役員に会社の代理権限を付与するためには,会社設立の際には創立総会議事録,設立後には権限委任状により権限を委任する必要があり,かつこれらの文書は公証人から公証を受ける必要がある。

 権限委任状等を通じて委任する代理権限には,訴訟・回収権限 (Pleitos y Cobranzas),事務管理権限(Actos de Administración),財産処分権限(Actos de Dominio)などが存在している。機動的に事業を執行しつつ権限濫用を防止する観点から,誰にいかなる種類の権限をどのような範囲で単独又は共同で行使させるのが望ましいか,検討する必要がある。

 委任状で付与した権限を無効とするにあたっても,公証人に権限委任状の失効を申請する必要がある。一部の企業には,委任状を失効することなく放置・紛失するなどして誰にいかなる権限を付与したのか不明となっている場合がある。現地役職員による権限濫用のリスクを回避するためには権限委任状の適切な管理が不可欠である。

 公証人(日本においてはメキシコ大使館領事部)による公証は,以上のような権限委任状の発行・失効の場面に加え,様々な会社ガバナンス上の行為や第三者との取引行為において要求される。例えば,会社設立時は,会社設立証書の署名代行者宛ての委任状の発行,会社設立証書の作成,会社設立後は,臨時株主総会の議事録作成,不動産取引契約書の締結などの場面において公証を受ける必要がある。円滑に公証を受けるためには,公証人や大使館領事部に対し適切な申請書類を提出すると共に,信頼関係を構築しておくことも重要である。

参考文献:高橋=ナマドバスケス「「メキシコ進出の法務・リスクマネジメント─進出ラッシュの背景と米大統領選の影響を含めて」(ビジネス法務2017年2月号特別企画)

[1]可変資本株式会社(S.A. de C.V.)及び可変資本合同会社(S. de R.L. de C.V.)という会社形態がとられるのが通常である。

[2] 取締役会の代わりに,独任制の単独代表取締役(Administrador Único)を置くことも可能である。

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